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高田好胤という和尚は、昭和のころにわかりやすい説法で活躍された。 これは昭和60年7月のサンケイ新聞(正論欄)からのお話です。 表題は「現代に必要な地獄の思想」。  僧侶らしい真っ当な主張ですが、地獄について本気で話すなど当時でも希なことでした。

高田和上「来世などといえば、否定することが現代人の教養であるが如くにいう人が多い。これは現代人の思い上がりである。 人間は文明の進歩につれて実は大切なものを失ったのである。どうして来世を打ち消すことが出来ようか。」

「私たちのご先祖は、地獄極楽の思想で道義心や思いやりの心を育てられた。それが今日では自分たちだけがよければよいという享楽的な世の中に落ち果てた。 未来を思えば恐ろしい所業である。」

「命あるものは生まれ変わり死に変わりして、積善によって六道輪廻する。 六道とは地獄・餓鬼・畜生・修羅・人間・天上であり、これらはすべて迷いの世界である。 

天上というと、幸福そのものの世界と思いがちだが、仏教においては迷界である。 天人の寿命は二万年と長い。 しかし長い寿命も尽きるときがくる。 そのとき天人五衰という老衰症状が露わになる。」

「すなわち、

  1. 天人の体を飾る花が枯れる。
  2. 天人の衣が汚れてくる。
  3. 体が臭くなる。
  4. 視力が衰える。
  5. 厭世観に襲われ絶望する。

以上の症状である。 これをみるに、現実の私たちの生活そのものを示唆するところ大ではないか。 現在の自由を享受する日々は、まさに天国ぐらしであるが。」

「天人が天上界を去るときの苦しみは、地獄の苦しみよりも何倍も大きいのである。 山高ければ落ちゆく谷底はいよいよ深い。 なんとも穿ちえた表現であり、教戒ではないか。 般若心経に『遠離一切顛倒』(一切の顛倒から遠く離れる)と説く。 

ないものをあるように思い、物事を逆さまに見て妄想を抱くことを顛倒という。 この文字が身に沁みる。 私たちは今、文明化することが進歩しているが如くに思い込んでいるが、これが顛倒(てんどう)である。」

「文明化による欲望の肥大を、あたかも進歩と思い込むなど、これが私たちの顛倒である。この顛倒に気づくことがなければ、堕地獄の報いからの免れは所詮術なき沙汰である。」▲

**要点エゴイズムが現代人の顛倒である。 天界から去る時は、耐えがたく地獄の苦しみよりもはるかに大きい。 文明化が進歩と思い込むのは顛倒である‥等々。  

**かくして顛倒の時代には、色々の顛倒の主張があります。 

「忍耐に意味がない」 「修行は時間のムダ」 「日本人は働きすぎ」 「貧乏人は無能で不幸」

「苦しみが人格を磨くという変な思い込み」  「日本社会は同調圧力が強く住みづらい」   

「質素倹約は発展のさまたげ」 など。 かくして受け継がれてきた日本人の真面目さが、失われていきます。