1,二宮尊徳(1787~1856)
農民の中の英傑といえば、二宮尊徳翁です。 生まれながらに頭脳明晰、身体強健でありしかも慈悲深い。 翁は農民のために、その優れた知力と体力を捧げ切った69年の生涯でした。 徳川後期に一農民として応現された観音菩薩なりき。 今の時代に受け入れにくいかもしれないけれど、日本の底力ここにありです。
〇尊徳翁のことば
凡そ小を積んで大を致すは自然の道なり。 真の利益は少なき処にあり。 利の多きは必ず真の利にあらず。
一鍬々々耕すよりは順なるはなく、速やかなるはなし。 奪って益なく譲って損なし。 荒地は荒地の力で耕せ。
百石の者は五十石で暮らし、半分を推し譲りて一村が衰えざるよう。
むかし蒔く木の実は、今大木となりにけり。 いま蒔く木の実は後の大木ぞ。
あすのため今日つとめ、来年のため今年つとむるは安楽自在、事なして成就せずということなし。
一一一ある年の6月、初茄子の味がからかった。 このことから尊徳翁は今年の冷夏なるを察知し、三ケ村に稗(ひえ)をまかせ、お上に減反を申請した。 翁の指示を守った者は飢饉を免れることができた。▲
2,「泥の文明」 松本健一著 (新潮文庫)
モンスーン気候のアジアでは、「農業と定住」という泥の文明が「共生」の理想を育んできた。 東アジアの共同体は弱者・病者や死者らを抱えながら生きていく力を持っている。▲
3,「東アジア四千年の永続農業」 F・キング著 (2009・新聞)
評者:片山杜秀(思想家)・平成21年
「東アジア四千年の永続農業」の著者キング博士は農業物理学の権威。土壌研究者。 1909年(明治42)来日。 来日の目的はアジアの農業を学ぶためである。 当時、アメリカでは既に農地の疲弊がいわれていた。 南部の肥沃な土地が、開拓から百年ほどして大いにやせてしまったという。 一方、東アジアは近代農法を知らずとも、土地は肥沃なまま、農業が永続している。 どちらが進歩的といえるのか。 本書はキング博士の中国・朝鮮・日本の農業に敬意をはらった見聞記。
水路をめぐらし、豊かな土を海に流さない。 糞尿・泥やわらも無駄なく利用。 化学肥料はないが、低コストの循環型農法が確立している。 それに比べ、西洋は勿体ないことが多い。 下水道で糞尿(栄養)を海に捨てそれが衛生的と称する。 また博士は日本は伝統農法により、工夫によって一億人の人口を養えると試算する。
さてキング博士の踏査行から百年後の今日の日本の自給率は、約四割。 化学肥料は多用。 供給にも陰りがみえる。 近代農業と西洋型食文化に憧れた結果がこれだ。 いま一度キング博士の話を聞こう。(片山杜秀)▲
**令和6年10月、しばらく店頭からお米が消えました。 農業生産者が激減し高齢者がぎりぎり農業を支えているとのこと。 機械と化学肥料が、膨大な長時間労働を軽減しましたが、農業の問題は現代のいろんな問題がからんでいる。
クラーク博士、1876年(明治9)来日。
札幌農学校で西洋式農業を教えた。 つまり化学肥料や機械で大規模化の農業である。 わずか9カ月の滞在であったが、その熱烈なキリスト教精神による教育は大きな感化を与えた。▲
付記:西洋からは多く学ぶべきものはありますが、またマイナス面を知らざるべからず。
4,厳格
ブッダの言葉 「私の弟子になろうとする者は、家を捨て世間を捨て、財を捨てなければならない。 教えのためにこれら全てを捨てた者は、私の相続者であり、出家と呼ばれる。」 「戒律を守らず無節制にして人々の施物を受用するよりは、むしろ灼熱せる鉄丸を食らうべし。」 「修行僧は時ならぬのに歩き回るな。 執着に縛られるからである。 見るもの聞くものが、人の心を惑わせるのだ。」 「欲望を慎しむ心をもって定められた時間に、朝食を得るために村に入るがよい。」
「村人と親しくなるな。 集会を楽しむな。」▲
付記:人間には複雑にからんだ苦悩がありますが、ブッダはそれを徹底的に解決されました。 悩みの元は強烈な妄執というやつです。 ブッダは深い禅定に入り、解脱されました。 悟ってみれば、実は強烈な執着の実体は空であるという。 禅語に無一物中無尽蔵とある。
空は「真実に空を悟れば、空を離れる。 雲晴れて山月現れる。」とあり決して寂莫で虚しいものではありません。 妄執の雲が晴れ上がれば、無上智という美しい月が現れる。 弟子衆に徹底した厳格さを強要するのは、それだけのものがあるに違いない。 あやしげな空見に陥ることのないように、祖師は種々の方便を垂れておられます。
西諺「美しい花の下には、毒蛇がいることを学ばねばならぬ」
われら凡人は毒蛇が目に入らず、花に夢中になってしまう。
昭和の心理学者・宮城音弥
「天才は社会にとって、薬にもなり毒にもなる」。▲
タゴールの父と孫娘 インド
おじいさんが幼い孫娘に、インドの昔の神話を聞かせた。 すると孫娘は訊ねた「おじいちゃん、そのお話は本当のことなの?」 「かわいい孫や。 この世には本当のことより大切なものがあるんだよ」。▲
付記:「本当のことより大切なものがある」あるいは「命より大事なものがある」というのはいろんな意見がありそうです。
国会議員・原口一博氏の話 「命より大切なものがあると言って戦争を始め、命より大切なものはないと言って戦争を終わらせる」。 なるほど。
シオラン(ルーマニア)「西洋は厚化粧をして芳香剤を塗り込んだ死体である」。
カザンザキス(ギリシャ)「西欧は欺瞞と虚飾に覆われている」。
夏目漱石が西欧の三大特徴としてあげたもの
①一面性 ②一義性 ③傲慢
付記:白人の優越気分と有色人種のコンプレックスは今も抜きがたい。 私も高校生のころは、ハリウッド映画ぞっこんで白人に憧れましたが、禅書をみて目が覚めるように、愚昧ですけど東洋には東洋の深みを感じることが出来ました。 今どき若い人の金髪もいいけれど、東洋の真価にも気づいてほしい。